9月16日、大阪・住之江のクリエイティブセンター大阪(名村造船所跡地)にてPROPSプロトークの第1回「ソーシャル・ローカル・ビジネス」が開催されました。私はスタッフとして関わりながら、非常に刺激を受けるイベントでしたので感じたことをまとめておきたいと思います。

今回はDESIGNEAST03というイベントの中で、建築に限らず造形、衣服、社会デザインなど様々な分野のデザイナーの方が登壇する「スピーカーズコーナー」という枠の中でお時間をいただいて行うことができました。

場所は海沿いの元造船所の建物。

こだわりのあるご飯が手軽にいただける食堂や、市場、デザイナーの図面を元に家具や衣服が作れるワークショップなどもあって、文字通りの意味で「文化祭」という感じがあり、中にいるだけでずっとソワソワしていました。

そんな中、PROPSは建築や不動産の分野の中でも花形の分野に関わっているわけではない人々のひっそりとした集まりなので、この中で馴染むのかな・・・と心配な部分がありましたが、気分がいい感じに高揚した部分もあり、そして普通に集客したのでは集まらないような方々に少し変わった視点からお話ができる機会になったかなと思います。

途中から他のスピーカーズコーナーも終了したため100名近くの方が私たちの話を聞いているという状態になりました。来場されたお客さんに日頃の仕事について簡単に聞いてみたところ、建築設計に関わっている方が2割程度、他分野のデザイナーが数名、その他(設備・構造など)の建築系や不動産業にお勤めの方が2,3人ということでした。多くはデザインに興味はあるけれど仕事としては関わっていない人だということになると思います。これらの人々に私たちの話がどう響いたのかということはとても気になりますね。

それでは、現場ではどのような議論があったのか簡単に振り返りたいと思います。
今回のゲストは、大阪という地域にこだわりのある方、地域の問題を多く分析している方にまちづくりプロジェクトの実例を伺い、これから業種をまたいだ展開をしていくためにはどのような課題があるのかということについてお話いただきたいと考え、高岡伸一さん(高岡伸一建築設計事務所)篠原徹也さん(三井不動産)西田亮介さん(立命館大学大学院特別招聘准教授)の3名をお招きしました。
ゲストの方々の経歴についてはこちらをご覧ください。

まず自己紹介も兼ねて、お三方がどのように地域に対して関わっているかということについて伺いました。高岡氏は建築設計者・大学で建築を教える教育者・そして市民として、篠原氏は建築を学び、建築業界で働いた経験もあるので建築の事がわかる不動産屋として、西田氏は社会科学者としてまちづくりや地域振興に関わっている立場から、それぞれ意識を持って関わっているという事でした。
そして、まちを巻き込んだプロジェクトを成功させるためにはどのような意識を持っているのかということについて、キーワードと言う形で語っていただきました。
高岡氏:「まちの人をその気にさせる」
まちの魅力を引き出したいを外部の人間がいくら思っていても、まちの人々が動かなければ意味が無い。まちの人がやる気になるように、まちの中のキーパーソンに動いてもらうかが大事。
篠原氏:「ややわがままになる」
建築のプレゼンを発注者に対して行う立場から、プレゼンを受ける側の立場になって思ったのは発注者の顔色を伺って提案するのではなく、建築・不動産に携わる立場から、その土地がどのように活かされるとよいのかという理想像を出して欲しい。
西田氏:「誘因設計」
事業者側は経済的インセンティブを主に求めているのに対し、設計側は美的なものに対して重きを置いている人が多く2つの価値の間に乖離があるので、すり合わせていく必要がある。

  • 事例発表

高岡さんが大阪で取り組んでいるまちづくりプロジェクトについて、ご自身から発表していただき、それについての意見を交換していくかたちで議論を進めました。

(撮影松原昌幹/提供PROPS)

1.船場地区の近代建築

まず、大阪市中央区の船場地区に残る、明治時代以降の近代建築の保存について。
船場地区は大阪市の中心部、御堂筋沿いにあり明治時代から行動経済成長期にかけては成長センターとして存在を発揮していましたが、他地区で大規模開発が進む中最近は商店などの活動は停滞しています。ここに残る近代建築を活かして、文化の中心地へと街の役割を転換しようというムーブメントを作っています。
2005年に近代建築のオーナーたちと「大大阪サロン」を開催して以降船場地区の近代建築保存へ注目が集まり、大阪市立大の都市研究プラザでアートカフェを開催したり、公開空地でのイベントを行ったりして情報発信をしているということです。
その流れの中で、近代建築の復元工事に設計者として関わり外観、内装の補修を進めているということです。
雑誌や新聞・テレビなどで近代建築の魅力を紹介されることも増えて、船場など御堂筋沿いの街並みは改めて注目されているなと私も感じるのですが、西田氏からは「実際にイベントや改修によって建物が活用されているという効果が測定されているのか」という疑問が出てきました。これに対しては、まだ効果測定が進んでいないのでその点は課題だという認識が共有できたように感じます。
また篠原氏からは、大阪のこの地区での開発では人の賑わいを取り戻すことが求められているので、商業賃料に目標を設定して商業施設の導入を進めているという意見が出ましたが、高岡氏によると近代建築のオーナーさんの多数が家族経営であり、数値目標よりも雰囲気のよさややりがいなど、数値にならないものを第一にしている方も多いということを話していただきました。西田氏からはその点に関して、商業賃料という経営的な数値指標とは別に、昼間人口の増加など社会科学から分析した指標を活かすことができるのではないかという提案がありました。
会場からは建築家の前田茂樹さんから、イギリスでは不動産会社が建物の商業的価値とは別に歴史的価値についての評価も含めたエリアレポートを作っているのでこれが日本でもできないか?という意見が出ました。これに対し、西田氏は日本では建物の歴史的価値についての合意形成ができていないので指標とするには難しいという見方を示しました。篠原氏は、貴族によって作られた欧州の街並みと比べて日本のまちづくりは良く言えば民主的であり、建物に関しての歴史のスケール自体日本は非常に短いスパンで考えているので不動産会社としてもメリットがないという意見でした。

日本の都市はまだまだ形成過程の中にあって、自分たちが住む街の魅力や価値というものを語ったり、表現していくことが求められているんだなとこの議論を通して私は考えました。という一方で開発や商業展開を進める立場の人にとっては、わかりやすい指標がなければゴーサインが出しにくいし、明確な表現でなければ分かってくれないタイプの人が多いんだな、というナマナマしい部分も感じられました。分かり合える人とはちゃんと話す。分かってくれないやつには「これ!」と提示できるものをつくる事。その見切りをハッキリさせる必要がありますね。

2.「戦後ビル」

また高岡氏は戦後、1950-70年台にに建てられた戦後ビルを鑑賞して楽しむビルマニアカフェ(BMC)というグループで街中に残る高度成長期のビルを発見していく活動もしています。こちらは建築専門の人に限らず、昭和の文化を感じたい人が職種、性別、年齢の枠を超えて集まっているそうです。イベントの開催の他に月刊誌の刊行やコラムの執筆などの活動を通じてビル好きの輪を広げているということ。実際に書籍「いいビルの写真集 west」を読んでみると、建物や独特のデザインが生まれた背景も知ることができるけれど、それ以上にビルという都市の財産を楽しんでいるという感じがひしひしと感じられます。

まちづくりを成功させるために大事な事は?という質問に対しても、高岡氏、篠原氏ともに「まちづくりを仕事だと思わないこと」という回答をされていました。
このまちづくりへの態度について、西田氏からは社会起業家の持つ精神の説明がありました。社会起業家は自身の身近な問題意識を乗り越えるために事業を起こすのですが、この事業によって自らも生計を立てるというモチベーションがあるだけに、なるだけ投資を少なくして経営を成り立たせたり、ソフト的なイノベーションが進んだりするという利点があるとのこと。それに対して高岡氏はビルについては仕事にしたくないという意見がありました。
問題の切実さという面でこのお二人の立場の違いは面白いなと感じました。街並みの中でビルがこうあるべきだ、というのではなく純粋にビルが好きでそんな人が集まれば自然と
ビルの保存・活用は進んでいくという態度でなければうまくいかないという感覚があるのだと思います。これは上にも挙がっていた日本の街並みの形成過程の話にも通じますね。逆に古いビルの空き家問題や都市の保全という問題に対しての意識が高まれば、社会起業の可能性はあるのではないかと感じます。
また篠原氏からは、古いビルを所有する側からの問題として、デザインのよい物件が賃料が良いということにつながらないという指摘がありました。そのために良いデザインにたいする対価を支払うこともできないので良いデザインのビルを残そうという意識に繋がらず、無難な空間が街中を占めてしまうということです。西田氏からはこれからの人口収縮の中で、デザインは差別化戦略にならないか?という意見があり、篠原氏自身はテレビのゴールデンタイムのようなマジョリティ相手の仕事が多いけれど、それとは別に深夜番組のような存在の物件に対してもスポンサーをつけていきたいという思いを語っていただきました。高岡氏はゴールデンタイムといえる部分がが無くなってきている現代の社会で、デザインへの評価の比重はより高くなるのではないかという見方でした。
また、建築の設計者と開発の立場の違いについて、藤村龍至さんからは社会が収縮していくという状況では両者の立場をどうとりまとめるかということが重要であり、そのためには西田氏のような社会科学者からの助言が必要になると、主に西田氏に対するエールのようなものが送られました。

(撮影松原昌幹/提供PROPS)

会場からの意見や質問を聞く間もなく、時間を延長して議論を行いましたが、設計、不動産、社会科学というそれぞれ明確な立場からの意見を表しながらも、それぞれの個人として大事にしているものがにじみ出てくるお話が多く、都市をいうものをいかに楽しむのかという態度に触れられたと感じて嬉しくなりました。
DESIGNEASTの舞台となっている名村造船所跡地も、高度成長期の香りを残す場所であり、建築が上手に生かされながら、場所の意味合いを変えていくということを肌で感じている人が多かったので、地元大阪での事例を挙げながらの話は分かりやすく、良い雰囲気を生み出したのかなと感じています。

今回はとてもいい機会を与えていただいたDESIGNEASTの実行委員会の皆さんに感謝いたします。そして会場で、ツイッターのタイムラインで興味を持っていただいた方へも感謝です。ありがとうございました!

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